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目次
イノベーション・スキルセット/田川 欣哉
前回の記事で、「デザイン経営」とは、何か?について、触れました。
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本記事では、「デザイン経営」を進めるための、人材戦略について解説されている書籍について触れていきたいと思います。
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本書のポイント
①第四次産業革命の時代に求められるBTC型人材とは何か?
②BTC型組織を目指すための人材戦略とは?
③BTC型人材を増やすための具体的なアプローチとは?
① 第四次産業革命の時代に求められるBTC型人材とは何か?
第四次産業革命の歩みと顧客視点の開発

現代の私たちが身を置くビジネス環境は、第四次産業革命に突入しています。ソフトウェアやインターネットに、「データ×AI」への活用を組み合わせたサービス提供の形が求められます。
「AI」を活用するには、膨大なビッグデータが必要となり、そのためには、有効な顧客の声を積み上げていくことが求められます。
プラットフォームビジネスを提供する場合には、参加者が増えれば増えるほど利用価値が高まっていく「ネットワーク効果」が最も大事であることは、以下の記事でも解説しました。
製品の開発、改善のサイクルを高速化していくためには、ユーザーや参加者をいかに増やしていくことができるのかを考えることが求められるでしょう。
ここで少しデザインについておさらいすると、デザインには、「ブランド価値を生むためのデザイン」と、「課題解決のためのデザイン」があり、どちらも顧客視点で物事をとらえることが共通していましたよね。
加えて、「デザイン経営」とは、 「デザインを、企業価値向上のための重要な経営資源として活用する経営 」でしたね。
そのためには、顧客視点に立つことができるデザイナー的視点が必要ということでしたよね。
このあたりの具体的な説明については、冒頭に紹介している記事をご覧頂ければと思います。
マーケティングミックスは「4Pから5Pの時代へ」

マーケティングには、製品が売れるまでに4P、つまり、プロダクト(製品)、プレイス(流通)、プライス(価格)、プロモーション(販売促進)のすべてを上手く市場に適応させていく必要があるというマーケティングミックスという考え方が古くから大切にされています。
そのうえで、現代においては、もう一つのP、カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)があるかどうかも重要視されるようになっています。
D2Cブランドが成長を遂げているように、「コト付きのモノ」を売るなんて、まさにその典型ですよね。
顧客体験価値を上げていくには、潜在ニーズを見抜く価値提案、綿密に計算されたサービスしよう、ユーザーの満足度を高める顧客体験の設計、完成度の高いアプリやツール、心を動かすデザイン、どのように顧客に届けていくのかという新しい流通経路の設計をすることが重要であると解説されていました。
そもそもイノベーションとは?

なぜ、顧客体験価値の話をしたかというと、イノベーションには、顧客視点での発想がつきものだからです。
そもそもイノベーションとはどのような状態をいうのでしょうか?
明確な定義がある言葉ではありませんが、本書によると、
イノベーションとは、「新結合による価値創造とその社会浸透」のことと整理されています。
顧客体験価値を向上していくうえで、顧客にとっての価値を創造することと、それを、優れたデザイン性で社会へ浸透させることの両方が達成されて初めて、イノベーションが起こるということですね。
この両面を達成させるためには、「デザイン」が必要というわけです。
まさに、「デザイン」は、モノづくりの根幹にあたるということですね。
BTC型人材とは?
それでは、本題に入っていきましょう。
BTC型とは、「ビジネス×テクノロジー×クリエイティビティ」が結合した状態です。
それぞれの定義については、以下の通りで、
B(ビジネス)は、文系が得意とする分野:マーケティング、営業、コンサルティング
T(テクノロジー)は、理工学系が得意とする分野分野:プログラミングやアプリ開発
C(クリエイティビティ)は、芸術系が得意とする分野:ブランディング、設計
という3つの分野を横断的に理解している人材が、「BTC型人材」です。
変化が激しく、複雑化した時代だからこそ、その変化に柔軟に対応していくためにも、既存の人材の考え方(縦割り)ではなく、個々人が自らの専門分野と他の分野を横断していくという考え方(横串し)による総力戦が必要となってきます。
「デザイン思考」と 「クラシカルデザイン」の違い

「デザイン思考」とは?
次に、本書の中で、「デザイン思考」とは何か?という定義がありましたので、こちらについても触れておきます。
「デザイン思考」とは、「ユーザーのリアルな課題・感情・体験といった人間中心の視点をビジネスやテクノロジーの現場に取り込むための体系的手法」のことです。
製品やサービスが生み出す価値を顧客視点からデザインしていこうという考え方ですね。
そういった意味では、課題からアプローチする関係上、美しさや自己表現に重きを置くものではありません。また、「なぜそれをしたいのか?」とか、「どんな世界観や価値観を大切にしているのか?」を深堀りして見えることとなる、提供者そのものが抱えるビジョンやアイデアの核となる部分を見つけ出すことには、向いていません。
このあたりは、デザイナー的思考、つまり、「美意識をプロダクトへ落とし込むことで、ユーザーの共感を高めて、いい意味で購買意欲を高めようというという考え方」とは少し異なるものがあります。
「クラシカルデザイン」とは?
本書では、この「美意識をプロダクトへという考え方」を「クラシカルデザイン」と表現されています。この「クラシカル」には、「もう古い」という意味ではなく、「古くから大切にされている」とか、「古典的」という意味が含まれています。
経営の教科書やコミュニケーションの教科書にも、古くから大切にされている考え方は、たくさんありますよね。それと同じです。人の感性を刺激するプロダクトが求められるのは、今後も変わることはないでしょう。
自己表現を行っていくという意味においては、経営者にも、ビジョンや世界観を語ることは大切であり、これは、どちらかといえば、「クラシカルデザイン」の考え方に近いともいえるでしょう。
「デザイン思考」と「クラシカルデザイン」のどちらも重視するのが、BTC型人材
改めて整理しておくと、
ビジネス、テクノロジー系の人材が課題解決のためのデザインを取り入れていこうとするのが、「デザイン思考」であり、クリエイティビティ系の人材が大切にしている自己表現としてのブランディングが、「クラシカルデザイン」となります。
これは、どちらが優れているというような話ではなく、どちらも大切なことは言うまでもありません。
顧客に対して、どんな価値が提供できるのか?と考える姿勢はいずれも、共通しているからです。
デザインの中でも、「ブランド価値」を生み出すのが、「クラシカルデザイン」であり、「イノベーション力」を生み出すのが、「デザイン思考」とイメージして頂けるとわかりやすいと思います。
BTC型人材とは、このいずれの考え方をも理解し、製品開発にあたる人材のことであるとご理解頂ければ幸いです。
② BTC型組織を目指すための人材戦略とは?
それでは、次にBTC型人材が集まる組織へ変革するための戦略について見ていきしょう。
増えすぎたオペレーション人材
現代の日本企業では、オペレーション人材、つまり、既存の事業を磨き、改善していく人材が圧倒的に多いと言われています。
事業や会社にとって、「ムダ」な慣習や、プロセス、製品にとっての「ムダ」を排除することは、問題顕在化するまでは、あまり日常的に意識する人は少ないのが現実ではないでしょうか。
既存の事業を磨いていくだけでは、「誰も求めていない」機能が追加されたり、競合企業のサービスと差別化できなくなり、新たなイノベーションを行う企業に淘汰されてしまうリスクが生まれます。
そもそも、既存の事業を磨くのは、どちらかと言えば、自分視点の発想です。
顧客視点を重視する「デザイン経営」を取り入れることで、イノベーションの数を増やしていきたいものですね。
イノベーション人材(BTC型人材)を増やすことの重要性

そももそもイノベーションとは、上記で触れたとおり、「新結合による価値創造とその社会浸透」 のことです。アイデアを生み、価値を創造していくだけではなく、社会に浸透させるまでをワンセットで実現することで、達成されるものと定義されているのは注目すべきところでしょう。
本書では、「イノベーション人材」の定義として、「アイデアの具現化に貢献し、社会浸透の初期段階まで導いていく人材」とされています。
社会に浸透させていくには、「ユーザー視点による使いやすさ」や、「印象を良くする美意識」も大切に、提供する価値に、一貫性を持たせていくことも重要です。これが、ブランディングにもつながります。
インターネット技術の発展により、顧客との距離も近づき、提供できるサービスが多様化している現代においては、いかにして課題を発見し、その課題に対して適切な解決策を見つけ出し、どのようにユーザーに使い続けてもらうのかを考え抜くことが大事だと言えるでしょう。
BTC型人材を生み出すコツ
BTC型人材を増やすための具体的なアプローチについては、次のポイントにて確認していきますが、ここでは、BTC型人材を生み出すためのコツを紹介したいと思います。
本書では、「片足を安心できる得意な領域、片足は新しい分野で探り進んでもらう」のがコツだと説明されています。
どういうことかというと、人間は、何もかも新しい環境に身を置くと、ストレスや過度なプレッシャーを抱えることになるため、安心できる得意な領域に半歩、身を置くことで、人に教えられる、価値を提供できるという「安心」と、新しい分野にもう半歩、身を置いてもらうことで、適度なプレッシャーを与え、マンネリ化も防ぎ、他の人に教えてもらうという感謝が芽生えます。
また、この半歩ずつの人材育成は、放っておいても、各自がお互いの知識やスキルを交換しあう風土や、得意な人が苦手な人に、自分の得意なことを教えるという自己充実感も生み出す効果があるという効果を生むようです。
③ BTC型人材を増やすための具体的なアプローチとは?

それでは、BTC型人材を増やすための具体的なアプローチについて見ていきましょう。
ハイブリッドな人材が変化の時代を生き抜く
価値を創造して、社会に浸透させる過程においては、「課題解決のデザイン」と「ブランド価値のためのデザイン」の両方が必要になってくるのは、これまでも触れている通りです。
それでは、全てができるようにならないといけないのかと言えば、必ずしもそうではありません。正直自らの専門分野だけでも、最新の情報を追いかけるだけで、精いっぱいですよね。
大切なのは、自分の専門分野以外から、目を背けるのではなく、 自分の専門分野については、太い幹を持ちながらも、それ以外の分野について、 興味を持ってみることです。
そのアプローチは、自らの元々の専門分野や、描いているキャリアビジョンによっても異なりますが、
ビジネスとクリエイティビティ(BとC)を組み合わせて考えることができる人材を、「ビジネスデザイン」、テクノロジーとクリエイティビティ(TとC)を組み合わせて考えることができる人材を、「デザインエンジニアリング」と位置付けて、最後に、3つ目の領域や踏み出すことで、「BTC型の人材」が完成するというわけです。
ここでも大事なのが、全てに専門レベルで網羅的に理解しないといけないわけではなく、自分の専門分野以外の領域でも、なめらかなコミュニケーションを取ることできる「リテラシー」、つまり前提の知識を理解ができていれば充分です。
プロトタイプの重要性

そのためにも、助けとなるのが、プロトタイプを反復継続させていく、アジャイル型の開発です。
アジャイル型については、「デザイン経営」の記事でも触れたとおり、「観察」「課題定義」「仮説検証」「プロトタイプ作成」「検証」というサイクルを短期的に反復させて、試作品から完成品へと近づけていく開発手法です。
このアジャイル型の開発を行うことで、当事者を増やし、コミュニケーションの機会を増やすことで、全員で成長と失敗を共有することもできるほか、専門分野以外への理解も深まっていきます。
それでは、個々の要素について、どのように高めていけばいいのかも見ていきましょう。
クリエイティビティを向上させるために
クリエイティビティを構成する代表的な要素としては、「言語化能力」と「解像度(具体性)」の高さがあると言われています。
言語化能力は、センスにより磨かれます。
言語化能力を上げるために、センスを磨く

「ブランド価値を生むためのデザイン」力を身に付けるためには、どのようにして、顧客にとっての、「美意識」や、「使いやすさ」「価値提供の一貫性」を考えるうえで、「センス」を磨いていく姿勢は大切です。
本書によると、「センスは、ジャッジの連続から生まれる」ため、「センスのない人は、何もジャッジしない人」と説明されています。
これは、くまモンを生み出したことで、おなじみの、水野学さんの言葉です。
なお、水野さんについては、、「センスは知識からはじまる」という書籍を出版されていて、センスについての論理的な説明や、生み出し方が説明されているおり、事例なども載っていて、非常に面白いです。私も水野さんの書籍に触れて、知識を増やし、視野を広げていこうと感じた一人です。
話が少し脱線してしまったので、本筋に戻します。
なぜ、連続したジャッジがセンスを磨くうえで必要かというと、
それは、自分の中での「好き」「嫌い」の判断を繰り返すことで、次第に自分の中での軸が定まり、一貫性を持たせることができるからです。また、嫌いなものをどうすれば、好きになれるのかという思考を重ねることで、「使いやすさ」や「美意識」の改善を生み出す効果もあります。
自分の物語を言語化できる能力はブランドを発信するうえでも、重要になってきますよね。
解像度を上げるために、顧客を徹底的に分析する
クリエイティビティを向上させるためには、解像度、つまり、表現の細かさを考えることも重要です。
顧客をよく観察して、どのようにデザインし、アプローチを行えば刺さりやすいのかを考えることができれば、自分のイメージするターゲット層に有効なアプローチを行うことができます。
解像度を上げるための指針として、本書で紹介されているのは、「n=1のリサーチ」です。これはどういうものかというと、「数ではなく、質にこだわるリサーチ」と表現すれば、イメージしやすいかなと思いますが、顧客一人ひとりの背景やストーリーも掘り起こして、徹底的に分析することで、顧客から気づきを得ようというものです。
例えば、自社の製品が好きという顧客がいた場合に、「なぜ好きなのか?」という部分を深堀りすることにより、あまり好きではないと感じている顧客や自社商品を知らない顧客についても、有効なアプローチを検討できる可能性が生まれますよね。
一般的な市場調査による、顧客の意見から、共通項を見つけ出すというようなアプローチとは異なるものがありますね。
課題解決力を向上させるために
次に、課題解決のデザイン力、つまり、イノベーション力を向上させるためのアプローチを見ていきましょう。
モノとモノサシという発想法

まず、一つ目のアプローチとして紹介されているのが、「モノとモノサシ」という発想法です。
これは、「アイデアと評価軸を想定して、目盛りをずらすことで新しいアイデアを生み出そう」というものです。
目盛りを動かすことで、一つの視点からだけで考えるのではなく、、より多角的に観察することで、「目盛りを動かさないほうがよさそうなところ」や「改善できそうなところ」を整理することができます。
「もっと〇〇するには、どうしたらいいだろう?」「仮に、○○を減らしたらどうなるだろう」という視点ですね。
この「モノとモノサシ」を有効に機能させていくためには、モノサシ、つまり、評価軸の種類を増やしたり、モノサシをどの角度から当てていくのか、どう動かしていくのかというスキルも磨く必要があると説明されており、私は、知識を習得して、視野を広げたり、感性を磨いていくことで、このスキルを高めることができるのではないかと整理しました。
デザインフィクションという視点

デザインフィクションとは、「目の前にない課題」を疑似的に発生させて解くことで、プロダクトを検討する手法です。
サイエンスフィクションが、「科学技術が、異常なまでに進化した未来」での人間の向き合い方はどう変わっているのか?提示するのに対して、
デザインフィクションは、「人間の生活様式や価値観が変化した未来」には、どのようなサービスが支持されているのか?どのような社会になっているのか?どうすれば、そのような社会を実現できるのかを考えます。
目の前のモノが変わっていることを描くのが、がサイエンスフィクション、人間が変わっていくことを描くのがデザインフィクションとイメージすれば、わかりやすいです。
課題解決には、「今見えている課題」を解決することも大事ですが、イノベーションというと、どちらかといえば、「まだ見えていない課題」を見つけ出して、解決することが重要な意味を持ちます。
人が、当たり前と思っていたたり、諦めていることに対して、素晴らしいビジョンを提示し、解決策を提供していくことで顧客視点での問題解決が実現できるということですね。
おわりに
いかがだったでしょうか?
激動の変化が起こるビジネス環境において、「デザイン」を経営に取り入れることや、人材育成に取り入れることの重要性を説明してきました。
ブランディング力は、提供する価値の一貫性を持たせることで、信頼につながり、ファンを増やす効果がありますし、イノベーション力は、新たな市場で、シェアを拡大していく可能性を生むでしょう。
なお、私が最終的に描くキャリアビジョンとしては、「ビジネスデザインができる税理士」です。
そのためには、教養を蓄えることや、感性を磨くことが大事であると感じております。
プロフィールにも記載の通り、私は、「哲学×アート×コンテンツ」を制したものが、この時代を制すると考えております。
哲学は、ビジネスの領域、アートは、クリエイティビティの領域、コンテンツは、テクノロジーの領域と紐づければ、非常に理解が深まりました。
最後までお読み頂きありがとうございました!
今後も学び続けて参ります!
ではまた!
まとめノート
税理士 ヒロ
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