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目次
顧客価値を生み出すデザイン経営
最近触れる書籍の中で「デザイン経営」という単語がよく出てくるので、いったん「デザイン経営」について、知っておこう!ということで、本記事を執筆しております。
「コト付きのモノ」を売るD2Cブランドが急成長しているように、製品やサービスに世界観やブランドを乗せていくことはとても大切です。
今回の記事を通して、「コト付きのモノ」の、「コト」にも、「モノ」にも、使えるのが、デザイン経営というアプローチだと理解して頂けることでしょう。
私のように、「デザイン経営」とは何?を理解しておきたいという方も、なんとなくはわかるけど改めて抑えておきたいという方も是非参考にして頂ければと思います。
なお、今回の学びについては、経済産業省が2018年5月に公表している以下の二つの資料に基づいています。
それでは、解説を3つのポイントで進めていこうと思います。
3つの疑問から理解するデザイン経営
①「デザイン経営」ってなに?そもそもデザインとは?
② 「デザイン経営」を行うための具体的な取り組みとは?
③知っておくとビジネスの可能性が広がる「グッドデザイン賞」とは?
① 「デザイン経営」ってなに?そもそもデザインとは?
ビジネスとデザインを語るうえで、「デザイン経営」や「デザイン思考」など色々な言葉があります。
これらの意味を学んでいく前に
そもそも、デザインとは何か?というところから理解しておく必要があります。
デザインとは?

資料には、「企業が大切にしている価値を実現しようとする意志を表現する営みである」と記載されています。
このデザインにも、2種類あります。
いずれについても、顧客視点で物事をとらえていることは、共通しています。
デザイン1:ブランド価値を生むためのデザイン
一つは、一貫したメッセージを伝えるためのブランド価値を生み出すためのデザインです。これは、イメージやすいですね。「コト」を形作るする部分です。
デザイン2:課題解決のためのデザイン
もう一つは、製品やサービスを顧客目線でとらえることで、人々がまだ気づいていない潜在的なニーズを掘り起こして、事業にしていくためのデザインです。課題からアプローチすることで、誰のために、何をしたいのか?という具体的なターゲットが明確になることで、既存の事業に縛られない、イノベーションを実現する源泉となります。こちらは、どちらかと言えば「モノ」を形づくる部分です。
「デザイン経営」とは?
資料によると、「デザインを、企業価値向上のための重要な経営資源として活用する経営」と定義されています。
現代の私たちビジネスパーソンが生きる時代は、「IoT(あらゆるモノがインターネットにつながる)時代」に突入しています。

近い将来、製品・部品につながるセンサーの数が、1兆個を突破するという予測もあります。

そんな常時接続される社会を迎えたことで、一回きりの関係ではなく、長期的な関係性を強化する必要が迫られてきました。
変化も激しく競争が激化した経営環境の中で、質の高い顧客体験を設計し、勝ち残っていくためにも、顧客やセンサーによって得られたデータを活用してサービスの改善を速いスピードで進めていく必要があります。
製品の見た目だけでなく、より顧客視点に立った使いやすさや顧客体験の価値を重視し、常に改善を繰り返すことで、競争力の高いビジネスモデルを構築していく必要があるということですね。
「デザイン経営」の条件
定義の中で、「経営資源として活用する経営」と触れられている通り、「デザインは大事」とふわっとした形で終わるのではなく、「具体的にデザインをどのように活用しているのか?」を考える必要があります。
資料によると、「デザイン経営」をしていると語るには、2つの条件があると触れられています。
デザイン経営の条件1:経営チームにデザイン責任者がいること
顧客視点かどうか、ブランド形成のためになるのかを判断して、業務プロセスの変更を具体的に構想していくためにも、経営陣の中に、デザイン責任者は必要です。
責任の所在を明らかにすることは何事にも大事です。毎回なんとなく決まったでは、方向性がぶれたり、判断に時間がかかります。企業ブランドの一貫性を担保するためにも、経営レベルでの責任者は必要ということでしょう。
デザイン経営の条件2:事業戦略構築の最上流からデザインが関与すること
最上流からデザインが関与することで、製品やサービスの立ち上げから、完成まで一貫して、顧客視点を重要視したマインドを定着させることができます。
また、最初からかかわることで、方向性がぶれたり、事業メンバー内での混乱を防ぐ効果も生まれるでしょう。
「デザイン経営」を行うメリット?

一つ目のポイントの最後に、「デザイン経営」を行うメリットを見ておきましょう。
先に、結論を言えば、「デザイン経営」を行うことで、競争力が高いビジネスモデルを構築できるということです。
そもそも、「デザイン経営」で重視されることは、顧客視点に立って、顧客からどう見えているのか、顧客にとっての課題は何かと考え続けることです。
デザインには、「ブランド価値を生むためのデザイン」と「課題解決のためのデザイン」がありましたよね。それぞれのデザインが生み出す効果こそが、「デザイン経営」のメリットとなり、これらが相乗効果を生むことで、競争力の高い組織へと成長していきます。
「ブランド価値を生むためのデザイン」が生み出すブランド力
ブランドとは、顧客や社会への価値提供を考える際の柱となる部分です。ブランドの軸ブレを防ぐことで、価値提供の一貫性を保つことができます。その企業の、「どうありたいのか?」「誰に対してどんな価値を提供したいのか?」「どんな理由で、その事業を行っているのか?」といった想いを製品やサービスに乗せていくためにあるのが、ブランドです。このブランドがあることで、「この製品、このサービス、この会社のものがいい」という根強いファンを生むことになります。よくブランディングと言われる部分です。
「課題解決のためのデザイン」が生み出すイノベーション力
既に見えているもの、まだ見えていないものを問わず、顧客が直面している不満や悩みをあぶり出し、これらを解消していくことにより、イノベーションが生まれます。
顧客視点に立つことで、課題重視の製品やサービスを生み出すことができ、新たなニーズを発掘することもできるというわけです。
米アップルの創業者スティーブ・ジョブズは、「顧客は、自分が何が欲しいのかわかっていない」という言葉を残しています。
顧客が気づいていないニーズを掘り起こし、そこに向けて、製品やサービスをデザインしておくことで、ジョブズのような「誰も見たことがないモノ」を生み出せるのかも知れませんね。
② 「デザイン経営」を行うための具体的な取り組みとは?
それでは、「デザイン経営」を行うための具体的な取り組みについて、見ていきましょう。
資料によると、以下のものが紹介されています。
「デザイン経営」を行うための具体的な取り組み
・社内横断的にプロジェクトを推進する
・顧客観察をするための手法を導入する
・「観察」⇒「仮説構築」⇒「試作」⇒「再仮説構築」の反復を行う
・デザイン人材の採用及び育成
・デザインの結果指標・途中成果を測る指標の設計を工夫する
が挙げられています。
これを3つに分類しながら、整理していきます。

取り組み1:経営層の理解
「デザイン経営」を定着させるためには、まず、経営層の理解を避けて通ることはできません。
条件にもあったように、顧客視点をもつデザイナーが最上流から製品やサービス開発に参画することで、方向性がぶれることを防ぎ、最速で試作品の作成へ取り掛かることもできます。
製品やサービスのコンセプト伝達やマーケティングにはデザインが必要であり、デザインに取り組むことで成長が加速するということをよく理解しておく必要があるでしょう。
デザインとは、課題解決によるイノベーション力、ブランディングによるブランド価値を生み出すということを最上流から意識する必要があるということです。
取り組み2:組織風土の醸成
そのうえで、現場で働いている人たちに、「デザイン経営」が浸透するように、組織風土を醸成していくことも大切です。
成果指標や評価指標を整備し、デザインの成功の形を提示しておくことで、どう頑張ればいいのか?何を頑張ればいいのか?どのようになれば認められるのか?を提示しておくと、社員のやりがいにつながります。
資料の中で、複数の成功企業が共通して成果指標として導入していると提示しているのが、デザイン賞を受賞できたかどうかというものです。
デザイン賞については、3つ目のポイントで触れていきますが、外部の第三者機関にも認められているというのは、当事者の意欲を高めるだけでなく、経営陣への説得力もあり、評価にもつなげやすいということですね。
「デザイン経営」にて実践すべき開発手法
「デザイン経営」を組織風土として、定着させるためには、経営者側からの発信や整備だけでなく、現場の形も見直していく適応させていくことが大切です。
製品の開発手法について、資料の中で紹介されているのが、「ウォーターフォール型」から「アジャイル型」への移行です。
「ウォーターフォール型」 とは
工程別に順を追って、開発していく手法です。基本的に、前の工程へ戻ることはありません。材料がベルトコンベアーに乗って、製品になっていく姿をイメージして頂くとわかりやすいです。こちらのほうが、日本では伝統的なアプローチと言えるでしょう。工程別に管理できるため、どこにミスが多いかなど、マネジメントもしやすく、 縦割り型の組織運営に向いています。
一方で、こちらのデメリットしては、しっかりと計画を行ってから、製品開発に着手するため、開発着手までに時間が掛かる点、ミス発覚から手戻り工数が多くなってしまう点、開発の最終段階まで見えないためイメージしにくい点、ユーザーの意見が反映しにくいという点などが挙げられます。
「アジャイル型 」とは
初めから厳密な仕様は決めず、おおよその仕様だけで、開発を開始し、小単位での「設計⇒実装⇒テスト」を繰り返すことで、試作品から完成品へと近づけていく手法です。「とりあえず、始めてみよう」というスタンスと言えますね。アップル社のiPhoneや、スマホアプリをイメージして頂ければわかりやすいですが、とりあえず展開してみて、ユーザーの意見も取り入れながら、改善を繰り返していますよね。
こちらのメリットは、ユーザーの意見を取り入れやすく、「誰も求めていないサービス」になりにくい点や、当事者が完成品をイメージしやすく、当事者意識を持ちやすいという点、完成までのスピードを速める効果もある点などが挙げられます。
もちろん、こちらの手法もメリットだけではありません。デメリットとしては、開発当事者が増えることにより、意見や価値観がばらついてしまう可能性があるため、マネジメントが難しいという点です。メンバーが増えることにより、当事者間のコミュニケーションをより大事にして、ビジョンを共有しておく必要があります。
また、設計から改善までのサイクルが早いため、急な仕様変更にも対応できるように優れた技術スキルやメンバー間の連係により、より速い対応が求められます。
メンバー間でのビジョン共有のためには、前提となる知識の理解を統一しておくことも大切と言えるでしょう。人材を育成する必要もあるということですね。
取り組み3:人材の育成
それでは、どのように人材を育成していけばいいのでしょうか。
これには、二つのアプローチがあります。
一つは、ビジネス、テクノロジー系の強い人材にデザイン的な思考を定着させるというものです。
もう一つは、デザイン系の人材に、ビジネス、テクノロジーの領域について理解してもらうというものです。
大事なのは、デザイン系と、ビジネス、テクノロジー系の人材が、交流し、成功、失敗を共有する中で、ともに成長していく仕組みを作れているかどうかに掛かっています。
お互い未知の領域でもあるでしょうから、助け合い、成長しあう姿勢が大切ですね。
このあたりの、人材論については、以下の記事にて解説しております。
③ 知っておくとビジネスの可能性が広がる「グッドデザイン賞」とは?

この記事の最後に、グッドデザイン賞というものを紹介しておきます。
紹介した資料に度々登場するフレーズにはなるのですが、実際に、調べてみると、非常に面白くて、アイデアの参考にもなり、勉強になりました。
グッドデザイン賞の対象は、モノやサービスだけでなく、ビジネスモデル、場やコミュニティという広範囲に及びます。
ビジネスパーソンであれば、成長が加速するものだなと私は感じましたので、今年の受賞も楽しみにしたいと思います。
興味がある方は、下記よりご覧ください。
それでは、本記事の最後に、グッドデザイン賞2019の中から、私が感銘を受けたものを3つほど紹介して、終わりにしたいと思います。
感銘を受けたもの1: 本屋 [文喫]

まず、一つは、なんといっても、文喫です。私も、一度だけ訪れたことがあるのですが、こちらは、入場料1500円が発生する本屋さんで、一種類一冊しかなく、本と偶然出会うための空間や快適に過ごすためのカフェが併設されています。
私は、読書中毒なのかと自分でも思うくらい、読書が大好きです。
本屋さんの数が、20年間で半数になる中で、若者の読書離れも問題視されています。
実際に、訪れた感想としては、入場料を払うことで、「勉強する!」「良い本と出合って帰る」という意識が高まります。町の大きな本屋に行った際でも、ここまでの「何かを持って帰る」という意識は生まれてことはありませんでした。
結果としては、私は70冊ほどの書籍を購入していました。
本来入店するだけでは、無料であるはずの本屋さんを有料化したことで、カフェスペースでうるさくする人がいないなど店の雰囲気も良くなり、さらに、利用者にとっては、私のように勉強意欲や購買意欲を高める効果があるのだろうと感じました。
無料の情報が溢れる現代だからこそ、本質的に素晴らしいモノを提供する場合には、ユーザーの意識を高めるためにも、あえて有料化してみるという視点も大切なのだなという学びがありました。ユーザーにとっての体験価値が高まることで、口コミを呼び、サービスの価値がより高まり、信頼性につながっていくのではないでしょうか。、
感銘を受けたもの2: 音知覚装置 [音をからだで感じるユーザインタフェース「Ontenna」]

身体に不自由がある人達が、活躍できる社会はもっと歓迎されるべきだと私は考えています。
身体の自由、不自由にかかわらず、世の中に感動や価値を提供されている人たちはたくさんいます。
「○○なのに、△△をしていてすごい!」と、つい、取り組んでいることにフォーカスして、取り上げられがちですが、身体にハンデを持つ方々が、尋常ではない努力をしていることを忘れてはいけません。
私たちは、「健康が当たり前」「五体満足が当たり前」という意識に陥りがちです。若いころは特にそうでしょう。「五体満足は素晴らしいこと」「好きなことが自分の身体を使って自由にできるのは幸せなこと」ということを忘れてはいけません。
「Ontenna」は、聴覚にハンデを持つ方にも、生活を楽しく、コミュニケーションを取りやすくするために、音を振動や光によって、伝えるというインターフェースです。見た目も非常におしゃれなのはもちろんなのですが、私は、このアプローチ素晴らしいなと感じました。
私の職場にも、聴覚にハンデを持たれている方がいらっしゃるのですが、声を掛けられても、もちろん気づきにくいため、肩をたたいたり、机をノックして、合図をもらう必要があります。業務に集中している際に、急に肩を叩かれたりすると、誰でもびっくりしてしまいますよね。それが手元にあるモノが光ったり、振動してくれたりすると、その心理的なストレスも軽減するのではないでしょうか。
「Ontenna」は、紹介動画の中で、全国の 聴覚障害の子どもを対象にした学校に無料配布をするという発表をされています。このインターフェースが社会に広く浸透するといいですね。
感銘を受けたもの3: カードゲーム&書籍 [SDGs de 地方創生カードゲーム/書籍:持続可能な地域のつくり方]

私たちは、「SDGs」と「地方創生」について、言葉ではよく聞くものの、実際どうすればいいの?とかどんなことが問題なのか?という本質的な部分をあまり理解できていない方は多いのでないでしょうか?
持続可能な未来へつなげるためにも、都市部のみにお金や人が集まるのではなく、地方での財源確保や、観光として訪れていくことは、とても大切だと思っています。
このあたりの話は、森岡毅さんも過去の動画で語られていました。
そんな、本質的な理解が難しい課題に対して、カードゲームと書籍というツールにより、楽しみながら理解を助けるというアプローチは素晴らしいなと感じました。
人はゲームが大好きです。仕事でも勉強でも、自分なりの「ゲーム性」を持たせると、楽しむことができますよね。楽しくなると、人は、興味がわき、学習意欲も高まります。発信者の在り方として、知識スキルの習得や理解についてもゲームから学んでもらおうという発想は見習うべきものがあると感じました。
まとめノート
税理士 ヒロ
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