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個人所有の海外中古不動産はなぜ、税制改正対象となったのか【令和2年度税制改正】

この記事を読むのに必要な時間は約 6 分 42 秒です。

個人所得税の損益通算規制を考える

2019年末の税制改正大綱にて、令和2年度税制改正により、個人が所有する海外の中古建物に対する減価償却費の経費算入につき、一定の制限を加えるという規制がされることが明記されました。

この記事では、なぜこのような規制が入ることになったのかをはじめ、所得税の仕組みもおさらいして、所得税について、理解を深めて頂くことを目的としております。最後には、過去に行われた航空機リース事業について、規制がされた裁判例についても、まとめております。

この記事のポイント

①所得税の仕組みをおさらい

②改正の内容と、所得税のみ規制が入る理由

③過去に規制がされた航空機リース事業【平成17年に税制改正】

① 所得税の仕組みをおさらい

まず、はじめに所得税の仕組みを知っておきましょう。

法人税と同じように、利益に対して税金がかけられる税金です。所得税の仕組みを理解するうえで、法人税との違いという視点で、理解していきましょう。

細かい点を上げれば、きりがありませんので、代表的なものを3つだけとりあげることにします。

違い1:所得税は、収入の内容によって、税率が異なる

所得税には、10種類の所得種類に振り分けられています。「利子所得」「配当所得」「不動産所得」「事業所得」「給与所得」「退職所得」「山林所得」「譲渡所得」「一時所得」「雑所得」という項目です。

それぞれについて、詳しくは触れていきませんが、これらの所得のうち、どの所得に属するのか、加えて、どのような要因で、その所得が生じたのかにより、税率が異なる構造となっています。

例えば、譲渡所得だけを取り上げても、有価証券の譲渡か、不動産の譲渡か、これら以外の譲渡による所得なのか、加えて、有価証券以外については、取得から5年以上経過しているのかにより、税率がそれぞれ異なることになります。居住用財産の譲渡に関しても、税率を軽減する特例などもあります。複雑ですよね。

法人税の場合は、経費算入の規制がされたりするものの、基本的には、どのような収入の内容による場合でも税率が異なるということはありません。

違い2:所得税の基本税率は、利益が増えれば増えるほど、税率も上昇していく

所得税の特徴の2つ目として、所得税の基本税率については、5%から45%まで、所得状況に応じて増加していきます。

なお、個人の利益に対しては、個人住民税の基本税率である10%が固定的に上乗せされたりなどします。

最初は個人で初めて、ある程度利益が出れば、法人成りを検討しましょうという話があるのも、実はこの税率構造の違いが要因だったります。

どういうことかというと、事業所得や不動産所得の合計に対して、課税される所得が900万円を超え、1800万円以下である場合には、33%の所得税率が適用されます。住民税も考慮すると、43%の税率となります。

したがって、所得が900万円を超えてくると、法人税率の30%から35%(会社の資本金規模などによって変わる)と比較しても税率が高くなるため、法人成りを検討しましょうとなるわけです。

一方で、法人から個人役員に給与を支払いすぎると、トータルの税金が増えてしまうことになるため、給与を支払い過ぎるのは、節税にはつながらないということも言えるでしょう。

違い3:所得税は、利益と損失をすべて通算できるわけではない

法人については、利益の種類によらず、利益と損失を通算することができます。

一方で、個人については、「不動産所得」「事業所得」「山林所得」「譲渡所得のうち一定のもの」のみしか、通算が認められていません。

つまり、税率の構造なども異なることから、不動産などを売って損した金額を事業所得の黒字と通算することなどは、基本的に認められていないということです。

② 改正の内容と、所得税のみ規制が入る理由

それでは、海外中古建物に関する税制改正の内容に入っていきましょう。

本記事では、記事作成段階にて、具体的な税法条文が固まっていないこともあり、税制改正大綱ベースでの簡易的な内容解説とさせて頂きます。

海外中古不動産の税制改正内容

規制内容

海外中古建物を貸して収入がある場合に、その海外中古建物の貸付に関して、損失が生じたときは、その損失のうち、海外中古建物の減価償却費に相当する金額を生じなかったものとみなします。

規制対象外

減価償却費の計算につき、「簡便的な見積耐用年数」によっていない場合や、「耐用年数の見積方法につき、一定の書類の添付がある場合」は、規制対象外となります。

つまり、一定の書類添付がない、見積法による場合や、簡便法による場合が規制対象ということです。

規制対象開始時期

2021年以降の各年から

海外中古建物が節税商品として注目されていた理由

実は、海外中古建物を購入して個人所得税を節税するという方法は、一部の個人富裕層の中では、よく使われておりましたが、前々から改正がいずれ入るのではないかと注目されておりました。

なぜ、海外の中古建物投資が節税として注目されていたのでしょうか。

まず、中古建物の耐用年数については、簡便法によった場合には、

残存耐用年数と、経過した耐用年数の20%に相当する年数の合計年数により、

減価償却を行うこととなっております。

これは、国内の不動産でも、海外の不動産を買った場合でも同じです。

例えば新築の木造建物の耐用年数については、22年ですが、耐用年数が全て経過した木造中古建物の耐用年数は、22年に20%を乗じた4年となります。

次に、なぜ海外の中古建物が注目されるのかということですよね。

海外の中古建物のうち、アメリカや、ヨーロッパなどにあるものについては、耐用年数が既に経過していても、まだまだ賃貸収入を得ることができる木造建物がたくさんあります。

加えて、不動産の土地建物全体に占める建物の時価の割合が高いことが一般的です。

つまり、海外に所在する高額な不動産を購入した場合には、4年で、減価償却をして、経費算入することも可能だったということです。

所得税のみ規制対象となる理由

それでは、なぜ、所得税のみこの改正が入ることになったのでしょうか。

それは、所得税の仕組みのところでもおさらいした通り、所得税には、所得の種類によって、税率が異なるのと、不動産所得については、損益通算が可能であるためです。

耐用年数を経過した海外の木造中古建物である場合には、4年で減価償却費を計上し、個人事業や他の不動産貸付によって、生まれた利益と通算し、税率を引き下げることが可能です。

所得税と住民税を考慮すると、合計税率55%の人が経費を増やすことで、税率を引き下げることができれば、効果は大きいですよね。

加えて、不動産を売却した場合の税率は、5年超保有した場合には、所得税と住民税の合計で、約20%です。

このことから何が言えるでしょうか?

そうです。個人で高額な収入がある場合には、55%の税率対象となる利益に対して減価償却費をぶつけることで、節税をし、売却した場合の利益については、20%の税率が適用されることにより、この差額部分である35%の税率部分で、トータルの税金を引き下げる効果が生まれるということです。

法人税の場合には、利益に対する税率は基本的に一律であるため、規制をする必要はないというわけですね。

実際には、海外中古建物の管理がしきれないのではないかという点や、修繕費がかさむのではないかという点、為替リスクや不動産市況リスクにより、売値が下がってしまうのではないかという懸念があったり、道義的に問題があるのではないかという点から利用に後ろ向きだった方も多くいますので、富裕層の大半が使っていたというわけではありませんが、一つの節税対策として注目されていたというわけです。

③ 過去に規制がされた航空機リース事業【平成17年に税制改正】

航空機リース事業を活用した節税対策の内容と規制

海外中古建物への投資と同様に、かつてよく富裕層の間で利用されていた節税対策があります。

それが、航空機などのオペレーティングリース取引です。

どのような取引かと言うと、海外中古建物への投資の仕組みと似たようなものですが、航空機などのオペレーティングリース取引については、民法上の組合などを通して行った場合には、個人が航空機を保有しているものとみなして、個人側で「定率法による減価償却費を計上すること」が可能でした。

なお、定率法とは、購入初期であればあるほど、減価償却費を多く取ることができる減価償却の方法です。

建物の場合、定額法といった、毎年同額の減価償却費を計上されることに対して、定率法である場合には、短期的に投資コストを減価償却という形で経費化することができます。

建物である場合には、定額法のみしか認められていないため、海外中古建物の減価償却による場合には、耐用年数そのものの短縮を考えるしかないのですが、航空機などのリースについては、耐用年数というよりも、定率法という構造を利用した節税ということが言えるでしょう。

これにより、海外中古建物投資と同様、不動産所得での節税と、航空機譲渡による所得に対する税率の差を利用した節税が流行しておりました。

こちらについては、平成17年の税制改正により、組合事業(航空機リース事業の基となる民法上の組合などに対する出資)から生じた損失は生じなかったものとみなすという改正が行われました。

平成20年8月21日の国税不服審判所裁決の概要

この記事の最後に、航空機リース事業を利用した節税対策について、税制改正が行われるきっかけともなった裁決事例を紹介します。

この事件で、納税者は、航空機リース事業に関する所得を、不動産所得として、そこから生じた損失を他の所得と損益通算して申告しておりました。こちらに対して、国側が損益通算を認めないよと指摘したという事例です。

国側の論法としては、結論の導き方が、最終的や航空機リース事業に対する税制改正の内容とは異なりますが、簡単にまとめると以下のような理由です。

裁決事例での結論

・納税者が、行った組合事業を通しての航空機リース事業については、実質的に、組合に対する投資という性格しかなく、不動産の貸付とは考えられない。

・また、反復、継続、独立した性格もないことから、事業所得ということもできない

・したがって、雑所得として扱うべきだ

というものです。

航空機リース事業に対する所得を雑所得として扱うことで、損益通算の対象にならない所得となり、他の所得との通算を防止したということですね。

つまり、税制改正の内容としては、不動産所得であることは認めるけど、損益通算はさせないよという取り扱いになったのに対して、裁決事例では、そもそも不動産所得ではないよという取り扱いを行ったということです。

税制改正と結論が異なる理由を推察

個人的に、この違いが生まれたのには、2つの理由があると考えています。

一つは、不動産所得ではないと結論づけた場合には、反復、継続、独立さえしてしまえば、事業所得となり、損益通算を行おうとする人が出現する可能性があるため

もう一つは、裁決事例では、結論に導くうえで、既存の税法を基に導くしかなく、「不動産所得として、認めるけど、今回は損益通算を認めない」という理由付けが、租税法律主義の考え方から言っても、成立しにくいため

の2つです。

2つ目の理由に関して補足すると、法律には、ないけど、例外としてということだと、不公平ですし、税法にのっとった行政をしていないことになります。同様の事件があった場合には、個別状況ごとの検討ということにもなってしまうということです。

おわりに

いかがだったでしょうか。節税対策を行ううえでは、節税だけに走るわけではなく、「その取引は実際税金以外にメリットあるのか」や、「実質的に損をしているのではないか」という視点を持つことは大切です。

本記事では、税制改正の内容と、過去の裁判例などについてまとめました。過去の流れを知ることで、今後新たに生まれるであろう節税対策について、税制改正の対象となるのではないかという温度感を身に着けて頂く一助になれば、幸いです。

ではまた!

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税理士 ヒロ

経営者、数字が苦手な方に寄り添い、税務の立場から支援したいという思いから税理士を目指し、20歳の時に税理士試験に合格しました。 その後、資産承継、事業承継に特化した税理士事務所に入社し、日々顧客の満足とは何か、自分の成長の形とは何かを追い求め、7年目に突入しました。 こちらのブログでは、私の日々の学びやアウトプットを記事として投稿しておりますが、会社経営をされる方、新規事業を考えられる方、事業戦略を考えている方の少しでも参考になれば嬉しい限りです。 私のアウトプットを通して、足りないと感じていた1ピースや、改めて見つめなおすべき1ピースを見つけ、考え直す場として活用頂ければと考えております。

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