この記事を読むのに必要な時間は約 7 分 21 秒です。
目次
日本人の勝算/デービッド・アトキンソン
|
まず、本書の内容に入る前に、タイトルにもある通り、この書籍では非常に耳が痛いような話も多数ありますことをご理解頂ければ幸いです。
「日本人の勝算」というのは、「日本人は最強だから、何もしなくても余裕だよ」という意味ではありません。むしろ逆です。このままでは、弱小国に成り下がってしまう可能性が高いため、他の先進国に大きく負けている部分、サッカーの本田選手風に言うなら「伸びしろですね!」をどうすれば伸ばせるのかを考えて、伸ばすことができれば、最強の国として、返り咲くことができるという意味での勝算です。
つまりは、改革が伴います。改革や成長には、痛みが伴うと言われるように、耳が痛い話になりやすいということです。そこで、【良薬は口に苦い】というサブタイトルをつけさせて頂きました。
この記事で学べること
①日本の経済トレンド推移の方向性
②日本経済を成長させるために必要なこと
③ 最低賃金引上げの重要性
① 日本の経済トレンド推移の方向性
日本経済のトレンドは、広く周知されている「少子高齢化」にあることがまず言えます。2065年ごろには、4人に1人が、75歳以上という人口ピラミッドになると言われています。
それよりも影響が重大なトレンドとして、「人口の激減」があります。2050年あたりには、人口は、一億人を割り込むとも言われています。今から30年間で、今の人口の6人に1人が、いなくなるということです。
また、企業では「競争の激化」や「労働分配率の低下」が起こっているというトレンドがあります。
順に見ていきましょう。
ただ、先に結論から申し上げておくと、デフレ要因となるものばかりです。
高齢化とインフレ・デフレ

高齢化による経済効果については、世界中の論文が結論づけているところによると、
・24歳までの層の人口増は、インフレ要因
・25歳から54歳までの層の人口増はデフレ要因
・55歳から74歳までの層の人口増はインフレ要因
・74歳以上の層の人口増は、デフレ要因
となっております。
なぜそうなるのかというところは、高齢者の人口増が、現役世代の社会保障負担を高めることで、可処分所得が減り、消費に回りにくくなるという理由、一方で、子供が増加すれば、教育費や養育費のために、消費が増加しやすくなるという理由があるのではないかと私は考えました。
人口減少とインフレ・デフレ

人口減少は、イメージのとおり、需要の低下要因となり、デフレにつながります。人口減少の威力は、人口増加によるインフレ圧力の倍ぐらい大きいという研究もされているようです。
企業の競争激化
企業の競争激化により、何が起こるのか?それは、価格競争に勝ち目がない中小零細企業の倒産です。倒産は、その会社しか持たない技術を失う可能性はもちろんのこと、失業者の増加により、所得が減り、消費が減ることで、デフレ要因となります。
そういった意味では、規制緩和や国際競争力を高めようとすることは、必ずしも正解とは限らないとも言えるのでしょうね。
労働分配率の低下

これは、デフレだからという理由もあるかもしれませんが、デフレ下の中では、モノよりもお金の価値が高い状態にあるため、企業は貯蓄を増やす流れになりがちです。また、バブル経済を経験したことにより、現預金で安全に事業資金を確保しておこうという経営者も多くいらっしゃるのではと思います。
企業が設備投資をせず、借入などをして、イノベーションを起こそうという意識が低下することで収入が増加しない、または、価格競争の影響により、利益の確保には人件費を削らざるを得ないという発想から、結果として、労働分配率が下がるのだと説明されています。
労働分配率が下がれば、労働者の収入も低下するため、デフレ要因となります。
通貨発行量とインフレの関係

通貨を発行すれば、貨幣の供給量が増え、インフレになるという考え方があります。ただ、この考え方を正しくなるためには、大事な前提があります。
それは、供給を待ち望んでいた潜在的な需要があるという前提です。
お金を借りやすくなったりしても、そもそも設備投資したいという発想や、賃金を上げたいという発想がなければ、借入需要は生まれにくいですし、結果、消費は増えませんよね。
人口が増加している国では、通貨が増えれば、自然と需要も高まっていくのかも知れませんが、日本の経済トレンドでは、人口減少という問題を抱えていることを忘れてはいけません。
つまりは、いかに国民の需要を上げるかを考えることが大事ということですね。
② 日本経済を成長させるために必要なこと
まず、経済成長させるためにを考える前に、経済成長の本質を整理しておきましょう。
経済成長の本質
経済成長は、以下の2つの要因によることが大きいと言われています。
人口増加という市場の成長
人口が増加することで、モノと消費が増えることで経済が成長していくという要因です。「量的経済成長」と言えるのではないでしょうか。
生産性の向上
モノの値段が上がり、賃金が上昇していくことで、消費も増え、経済が成長していくという要因です。「質的経済成長」と言えるのではないでしょうか。
日本の経済成長のために必要なこと
上記で経済成長の要因を整理しました。日本では、人口増加による量的経済成長が現実的ではないため、生産性向上による質的経済成長を目指す以外ありません。日本の生産性はと言うと、人材の質ランキングは、「世界4位」であることに対して、生産性は「世界28位」にあるそうです。
つまりは、優秀な人材を活用しきれていないということです。日本は特許数や技術面でも誇り高いジャパンブランドを多く抱えています。その意味では、人材をうまく活用することさえできれば、生産性を向上させることができる可能性は高いのではないでしょうか。これは、いわゆる「のびしろ」です。
それでは、生産性を向上させるためには、どのような改革が必要なのでしょうか?
生産性向上のための改革1:イノベーション意識

マッキンゼーの研究論文によると、生産性向上の最大の足かせは、企業の大半を占める中小企業経営者の質が低いことにあるとまとめられているそうです。耳が痛いですね。
生産性向上には、イノベーション意識が大事ということで、リスクを恐れず、いかに挑戦し続けられるかということでしょう。
新しい発想を持ち、既存の経営資源を組み直したり、新しい経営資源を生み出した、新しい事業や技術の組み合わせを生み出していこうという姿勢が大事なのではないかと思います。
このイノベーション意識と生産性向上の相関が、最も関連性が高いそうです。
生産性向上のための改革2:企業規模の拡大

なぜ、企業規模を拡大することが必要かというと、一人当たり売上高で見たときに、従業員500人以上の企業は、20人未満の企業に比べて133%になるというデータ(規模が拡大すると設備が充実するため、効率が上がるからと考えられています。)があったり、社員の数が10%増えると、研究開発費が7.5%増えるという相関関係があるというデータがあるためです。
つまり、企業規模が拡大すれば、イノベーションが生まれやすい土壌ができ、一人当たりの給料が増えやすくなるということです。
書籍の中では、企業規模の拡大を後押しするためには、企業統合を後押しするための政策が必要であると説明されています。
生産性向上のための改革3: イノベーションを生み出すための大人教育

生産性向上のためには、社員教育によるスキルアップも重要です。IT化が進み、経営者の勘や経験の重要性が低下する一方で、機敏性や調査分析能力の重要性が増しています。この変化に対応するためには、古い頭の経営者の再教育が必要であると説明されています。
社員教育については、強制的に人材教育を促す政策が必要と説明されています。
人材育成しない会社には、罰金を科して、人材育成を積極的に行う会社には、補助金を出すといった具合です。
補助金だけでは、参加しない企業も多いため、参加しない会社には、罰金まで科すということでしょう。
実際に、諸外国では制度化している国もあるそうですよ。
なぜ強制的にでも行うかというと、日本には、眠っている技術や認知されていない技術がたくさんあるため、これを積極的に活用される流れを生み出すためには、国民全員のスキルアップが必要であるためです。
③ 最低賃金引上げの重要性

最低賃金引上げの重要性については、本書の中で最も熱く語られているテーマであり、メインテーマであると感じます。
最低賃金と生産性の間には、強い相関関係があるという意味では、生産性向上のための改革ともいえると思いますが、あえて、3つ目の学びとして、まとめていこうと思います。
最低賃金引上げが望ましい理由
まず、最低賃金引上げが望ましい理由としては、
・もっとも生産性が低い企業をターゲットにできる
・効果は上に波及し、最低賃金以上の賃金で働ている労働者の給与を高める効果も生む
・消費増加への影響が大きい
・時給が上がることで、労働の意欲が芽生え、雇用を増やすことも可能
・労働組合が弱体化しているため、賃金上昇圧力をかかりにくい状態にある
・生産性向上を「強制」できる(最も重要な理由だそうです)
最低賃金引上げ運用上のポイント
最低賃金を引き上げる際には、段階的に、継続的に上げていく必要があり、一気に引き上げすぎると企業に過剰な圧力がかかり、雇用に悪影響が生まれるそうです。
その国の経済の実情を踏まえた適切な引き上げ方を採用することが重要ということでしょう。
最低賃金引上げと失業増加の関係

最低賃金を引き上げれば、失業者が増えるのではないかという議論されることが多いですよね。
これは、古典的な経済学によって、「需要曲線と供給曲線は、適正な水準で一致する」という「見えざる手」という考え方に基づいて語られているのでしょうが、実際の労働市場では教科書ほどには、効率的ではないそうです。
なぜなら、労働者としては、他の職場の給与情報が完全にオープンになっていない要因や、転職の面倒さやコスト面の要因、子育て、親の介護、配偶者の扶養の関係上などの個人的事情により、低報酬な職場を選ぶという要因により、誰もが給料が高い場所を目指すわけではないからだそうです。
加えて、申し上げるなら、誰もが、給料だけを理由に仕事を選んでいるわけではなく、やりがいや夢だった職業であったために職場を選んでいる人も多いからではないでしょうか。
一方、最低賃金引上げにより、労働の需要は減少するのでしょうか。本書では、最低賃金引上げにより、企業は、生産性を上げて、価格に転嫁されていくため、結果として、経済が成長すると説明されています。そもそも、給料の多寡に関係なく、人材不足が深刻化している日本において、最低賃金引上げにより、失業者が増えるとまでは言えないでしょう。
実際に、世界の800以上の論文で、最低賃金引上げは失業者の増加につながらないと断言されているようです。
最低賃金引上げと地方創生の関係

現在の日本では、都道府県ごとに最低賃金がバラバラに設定されています。これは、アメリカに倣っているのではないかとも言われています。しかし、筆者は、最低賃金について、日本国内で統一すべきと言います。
なぜなら、最低賃金を都道府県ごとにバラバラに設定した結果、労働者は低いところからもっとも高い東京に集中する流れを生んでいる現状があるからだそうです。
私個人としても、家賃や実生活での物価は、東京のほうがコストが高いものと思いますが、今後より、ECなどインターネットのサービス提供が普及すれば、Amazonや楽天市場やメルカリなどインターネット上の取引は、全国どこからでも同じ値段で取引されているわけですから、所得水準も統一していくことが公平なのではないかと思います。
おわりに
いかがだったでしょうか?
経営者の質が悪いという話などは、かなり耳が痛かったのではないでしょうか。
日本の成長のためには、国民の所得を上げて消費を促すべきだといういうのは、本質的に正しい話であると感じました。
ただ一つ、この書籍の中で私が疑問が残るところは、「国債は減らしたほうがいい」という話や、「国債の増加は国の破滅につながる」という話です。
私は、むしろ国債の増加は需要増加につながるデフレ対策であると考えておりますので、国債発行については、明るいというスタンスを持っています。
このあたりは、私の想像だけで語っているわけではなく、「奇跡の経済教室」にて、非常にロジカルに学ばせて頂いたからこその結論です。
国債を増やすべきか減らすべきかのお話については、ぜひ、「奇跡の経済教室」をご一読頂ければと思います。
ではまた!
まとめノート
税理士 ヒロ
最新記事 by 税理士 ヒロ (全て見る)
- ボクが考える無料化の威力 - 2020年5月12日
- 資産や事業を守るための「倒産隔離機能」活用を考える - 2020年5月6日
- すべてがオンラインになった世界でのビジネスの在り方と成長戦略 - 2020年4月3日
- 二兎を追う者だけが三兎を得る【本当にそれって選択すべきことですか?】 - 2020年3月29日
- 練習のための練習はどんどんしよう【変化に対応できる人材の本質を考える】 - 2020年3月22日
この記事へのコメントはありません。