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目次
奇跡の経済教室【戦略編】/中野剛志
先日ご紹介させて頂いた奇跡の経済教室【基礎知識編】に引き続き、今回は、応用編となる戦略編をご紹介いたします。
前回の基礎知識編のほうが、個人的には発見の多い書籍でした。ぜひそちらもご一読をお勧めします。
基礎知識編では、「経済対策に対する意識は、勘違いばかりですよ」という説明がありました。
そのうえで、今回の書籍は、なぜそのような政策設定が行われるのか?私たちが勘違いを起こさないために、理解しておかないといけないことを説明しています。
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この書籍を通して学べる事
①成長のためには、2種類の戦略がある
②レントシーキング活動による民意誘導がある
③言葉の威力はすさまじい
① 成長のためには、「アメ型」と「ムチ型」の2種類の戦略がある
成長に対する経済戦略は、2種類あります。この書籍では、労働者に対する影響から、「アメ型」と「ムチ型」と表現されています。
「アメ型」戦略:賃金主導型

こちらは、労働者が不足気味になることで、労働者の賃金が上昇し、民間の収入が増えることで消費へつなげようとする戦略です。
この戦略を支えるためには、労働組合の賃金上昇圧力が強く、賃金をあげざるを得ない環境と、国境の壁による安価な労働力を得ることができないという環境を設定することが大切です。
つまり、労働者に対するアメは、企業に対しては、ムチとなり、研究開発により、付加価値を上げることにより、生産性を高めるしかないということです。
労働組合の力が強かったり、終身雇用により支えられていた高度経済成長期はまさにこの、アメ型の戦略が取られていたと言えるのではないでしょうか?
現在意向しつつある、実力成果主義のおかげで、やる気のある若者は、高収入を手にすることもできているわけですが、終身雇用制と年功序列型賃金設計のおかげで、成長が支えられていたと考えると、本当に終身雇用制が間違っていたのかというと疑問です。
日本人はまじめですから、年功序列型の賃金制度でも、若者は適当に仕事をしていたわけではないですからね。
景気が上向ている時は、アメ型でいいけど、下向いているときは、どうなのだろうという議論もありそうですが、国民の所得が上がらないと景気は上向かないことを考えると、国民の所得を増やし、消費に向かわせる気持ちをいかに高めるのかが大事であると考えます。
規制緩和は、企業の競争力を高め、供給を増やすことになるので、インフレ対策になることを忘れてはいけません。
いかに、経済を成長させるための規制を設けていくかが大事なのではないかと考えます。
「ムチ型」戦略:利潤主導型

こちらは、安価な労働力が手に入ることで、生産性を高めることで、 企業に利益をもたらすための戦略です。国際競争が活発になることで、安い販売価格で勝負する必要性が高まり、賃金を下げざるを得ないことから、移民など安価な労働力確保に向かいます。短期的に見れば、企業は利益を得て、設備投資などの需要に向かう可能性もありますが、国民全体としては、労働者の所得が減ることで、消費が冷え込む可能性が高まります。労働者に対するムチは、企業に対するアメにもなるということです。
自由競争をさせるために、規制緩和をし続けたことで、正規社員と非正規社員の所得格差を生むなど、日本が戦略として採用してきたのは、ムチ型戦略です。
この書籍では、政治家としての短期的な実績で評価されたい気持ちであったり、企業や富裕層が利益を得やすいムチ型戦略を採用することが、政治家の支持基盤強化につながるからという理由で、ムチ型戦略が取られがちだという話がされています。
② レントシーキング活動による民意誘導がある

レントシーキング活動とは、「特定の勢力が、自分たちの利益を増やすために、ルールを変更したり、政策を誘導したりすること」です。
ムチ型戦略を取ることで、利益を得るのは、企業や、企業に投資をしている株主などです。その利益の一部が政治献金へとつながる可能性があります。
日本は民主主義ですから、なんとか民意を「ムチ型の戦略を取るべきだ」という方向に誘導する必要があります。そのためには、「こんな規制があって、苦しんでいる人がいる」というイメージを過剰に宣伝したり、「この規制があるせいで、特定の団体が利益を得ている」という悪意的がある視点で啓蒙活動をしたりするわけですね。
自分に、メリットがない行動を起こそうとする人間はごく少数です。なぜ、そのような活動をしているのか?という視点が、受け取る私たちにも求められるということですね。
最近でも、終身雇用はできません!だとか、老後の資金は、数千万円必要という報道がされて、話題になりましたが、真意はどこにあるのかという邪推を始めれば怖いです。
終身雇用できないという話は、「リストラしたり、安価な労働力を採用するのは仕方ないです」という傾向になります。これを聞いて、それならスキルを高めて求められる人材になろうと意識が向かう人たちが増えれば、自己投資に向かうこともあるかもしれませんが、自己投資をする充分な余裕がない、所得層も存在します。
ただし、個人的には、大学生の就職活動が本当に自分がやりたい仕事についているのか?という実態など、転職する人たちがみな意味のある転職をしているのか?という実態については、改善の余地があるとも思っています。
スキルを磨かない労働者を終身雇用する余裕はありませんよ!という意味として、受け取る程度でよいと思います。社会人は、お金をもらっている以上、知識を磨き続けるべきというのが、私の価値観です。
老後の資金問題についても、消費税増税などで、消費がより冷え込みに向かう中で、国民の貯蓄意識を高め、貯蓄で誘導するための発言であると考えれば、景気はよりデフレへ向かうことになると言えるのではないでしょうか?
貯蓄が無駄だ!というつもりはありませんし、貯金を計画的にできる人はすごいなぁと思います。ただ、ぜいたくを言えば、所得を増やしながら、貯蓄もできるといいですよね。所得を増やすためには、消費するという国民の協力が必要となります。
そのためには、ビジネスパーソンには、自己投資を伴う消費として、知識習得をお勧めしたいところです。
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③ 言葉の威力はすさまじい

言葉の威力には、すさまじいものがあります。
私たちは、「赤字」と聞くと、いけないことだとか、減らしたほうがいいという意識を持ちます。また、「債務」と聞くと、返済しなければいかない、増やしてはいけないものだという意識を持ちます。
基礎知識編の記事でも取り上げたように、民間と国家では、「貨幣を発行できる能力があるかどうか」という部分が異なるため、同様に考えてはいけないのですが、言葉の威力でもって、民意を誘導することもあります。
「朱に染まれば赤くなる」と言われるように、私たちは、仲間内の考え方や価値観に流されがちです。今抱えている価値観が、本当に自分の中から出てきたオリジナルなものか?と問われると、元をたどれば、微妙な部分も多いでしょう。
それでは、なぜ政治家は、国債は減らすべきだとか、いずれ、債務不履行になると煽るのでしょうか?
それは税金を増やす理由付けをしたいからだと私は考えています。
税金を増やすことができれば、財務省の評価が高まります。詳しくは、下記書籍をご一読頂ければと思います。
そもそも、私たちは、最も危惧すべきなのは、財政支出を増やし、国民の所得が増えなかったり、増えたとしても、国民の意識が消費ではなく、貯蓄に向かうという結果にならないかどうかです。
そういう意味では、移民受け入れなどで、賃金を低下させたり、所得が国民以外に向かう政策は、貯蓄に向かわせるNISAや、iDeCoの本質を考えるべきだと思います。
少しを貯蓄に回すことは歓迎されるべきことだと思いますが、余ったお金をすべて、貯蓄に回す姿勢を全員が取ればどうなるのか?ということです。
経済政策的には、富裕層は次世代に財産を承継させる生前贈与の税率を引き下げるなど、若年層へ貯蓄を気持ちよく承継しやすい仕組みが必要であると感じます。
まとめノート(時間がない人は、これだけ見てもOK)
税理士 ヒロ
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