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目次
変わる事業承継/森・濱田松本法律事務所
私は、税務実務の中で、資産承継や事業承継に日々携わっている。
以下のようなお客様の多様なニーズを読み取り、しっかりと意図を汲み取ったうえで、オーダーメイドしていくというのが、承継業務に関わる際の私の役割だと考えている。
・どのような状態で財産を残せば良いのか相談に乗って欲しい
・財産をどのように分け、どのような渡し方をすれば良いのか相談に乗って欲しい
・どのような資産状態であれば、税金を抑えることができるのか
・どのように承継すれば、残された人たちが困らないのか
現状の資産承継に対する考え方
現在の資産承継現場(特に相続税の対象となるような方々)では、なんと言っても、節税を重視した資産承継対策が多いと言える。
これは、「変わる事業承継」でも、触れられていたことであり、私の肌感覚としても、節税対策に寄った対策相談は多いという印象がある。
だからこそ、私たち税務専門家に相談が来るのだが。。。
税務行政の現場としても、経済的に考えて合理的ではなく、節税のためだけに行った行為を見抜き、公平な課税を行おうとする動きがあり、悪質な節税コンサルタントと税務行政は、常にいたちごっこをしているのが、実情である。
私自身も、日々行われる裁判によって、納税者の対策が否認されたという事例が出るたびに、自分の顧客には、影響がないか、や、これからの相談対応を見直すべきかという懸念と日々向き合っている。
私は、公序良俗の価値観に基づいて、取り返しのつかない対策や、紛争のリスクがある対策には、推奨せず、むしろ諭すような立場であるが、それでも、顧客の強い要望があれば、法令条文の取り扱い等について、検討、アドバイス、実行サポートを行うこともある。
報酬を頂いている以上顧客のニーズには、抗えないし、実際に顧客がメリットを受けることになるので、最終は顧客判断と言わざるを得ない。
「変わる事業承継」でも触れられている通り、節税のみに偏った資産承継対策には、いくつか注意すべきことがある。
節税色の強い資産承継対策の問題点
私が思いつく問題点を3つに絞ると、以下のようなものがある
ただ、あくまでも節税だけによった対策を完全に否定するつもりはなく、ほかの事柄への影響も考えて対策を検討することが重要であるというのが、私の価値観であることは、今一度申し上げたい。
①将来の税制改正や裁判例の出現により、行った対策が、将来的に意味がなかったとされる可能性がある。
②経済的な合理性がないものも多く、取り返しがつかないものが多い
③財産を残された人たちが困ることがないのかに、あまり焦点があてられていない
節税対策の問題点をもう少し具体的に
上記3つの問題点のポイントについて、イメージを持ってもらいやすくするために、もう少し詳しく触れてみることにする。
まず、①については、記載の通りなので割愛することにして、②から触れていく。
②の取り返しのつかないとは、例えば居住地とは離れた場所での不動産の購入や、多額の保険料の支払い、海外財産への組み換え、資金繰りを圧迫する節税商品の購入などがある。
遠方にある不動産については、管理が大変である問題が出てくるだろうし、もっと言えば、距離にかかわらず、時価と財産評価額の乖離を利用して、不動産を購入した場合に、将来想定していた時価にて売却できなかった場合、「買わなければよかった」となるケースもあるだろう。
多額の保険料や資金繰りを圧迫する節税商品は似たような意味であるが、一度資産を組み替えてしまえば、解約返戻率が低かったり、契約の満期まで解約不能だったりして、事業や急な事情で資金需要が発生したときに、身動きが取りにくくなるという意味である。
最後に③については、②とも通じることがあるが、換金性の低い財産や流動性の低い財産、行ったこともない国の財産を残された親族の方々は、財産の取り扱いについて本当に困らないのかという判断軸を持とうということである。
これからの資産承継対策を考える
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前段が長くなってしまったが、ここからは、「変わる事業承継」の内容も参考にしながら、私が 考える資産承継対策の今後のあり方について考えてみることにする。
ただ、これはあくまでも現在の私の考え方に過ぎないので、変化する可能性は、高いことは 念のため一言添えておきたい。
「変わる事業承継」では、家族信託と社団、財産の可能性について触れられている。
私がかかわる税務現場でも、家族信託の組成ニーズや公益財産の設立ニーズは増えてきているという肌感覚を持っているため、これは正しい視点なのだろうと感じる。
70代や80代の活気ある会社創業者の方がまだまだ現役バリバリで会社の意思決定を行なっているケースは私の顧問先にも多々ある。会社運営の持続性としては、素晴らしいものを感じるし、取引先からの安心感からそのような運営をしているという本音もあるだろう。会社創業者としては、自分の生きがいを奪われたくない!とか、生涯現役を貫こうと考える方々も多いのだろう。後継者がいない問題やまだまだ任せられないという問題を抱えている方も多いので、一概に良い悪いは語ることはできない。
少子高齢化だけでなく、「継いで当たり前」という価値観の変容や、働き方の多様化により、後継者不足の問題は社会問題にもなっており、「ビズマ」さんのようなプラットフォームが誕生したり、会社の売却、経営統合を検討する経営者の方々は多いことだろう。
会社運営にあたっては、出資と経営が分離する仕組みはあるものの、家族企業に関しては、ここが分離していない企業が一般的であろう。ワンマン経営が囁かれる会社も多いことだろう。
さらに、出資と経営が分離されていない会社、特に非上場の会社の場合、親族内に後継者がいないとしても、出資持分は親族で引き継がれるのが一般的であり、代替わりすることによる換金制の低い出資持分についての相続税の問題や、出資持分の分散、創業時に分散した出資持分(株式)をどうするのかという問題も発生する。
そこで登場するのが家族信託の活用である。
家族信託を用いた資産承継対策
家族信託については、別の記事でも触れているのでここでは割愛するが、まず家族信託について、数年前から推奨し続けている私の肌感覚としては、家族信託に 対する考え方は変容しているものと感じる。
というのも、家族信託については、複雑な組成をしない限りにおいては、一般的に節税効果を生む対策ではないため、「税金が減るというメリットがないなら、興味がない」というのが、今までの温度だったように感じるが、最近ではニュースなどでも少しずつ取り上げられることも増え、情報に触れる機会が増えたからなのか、家族信託について勉強しているという話、や、家族信託いついて相談に乗って欲しいというニーズも増えてきたように感じる
家族信託制度の浸透により、メリットが理解されてきたことと、そもそも考えるべきは節税メリットだけではないという価値観が増えてきたからではないかと私は考えている。
それでは、資産承継への家族信託への活用で何ができるのか?であるが、まずはじめに、触れておくと、家族信託については、内容の自由度が高い反面、家族信託さえしておけば大丈夫というものでもない。大事なのは、どのような内容の 信託を組成するのかという点であるということはご留意いただきたい。
話も長くなっているので、家族信託でできることの中で最も資産承継に関係性が高いものを一つ きりだすと、それはなんといっても、所有権と受益の分離である。
不動産であれば、認知症になりかけている親に変わって、子供や孫が財産管理をする一方で、家賃収入自体は、引き続き親が受け取るということも可能であるし、所有権に 相当する財産権も分割がしやすくなるため、財産権や家賃の権利は、兄弟姉妹で均等に分割するなり、割合を調整するなりしたうえで、売却や担保設定などの共有所有の不動産ではスムーズに進みにくいことを、譬えば長男の意思決定に任せることも可能である。
これは、非上場会社の出資持分にもあてはまることで、財産権や配当権は、兄弟姉妹で分割させて、議決権は、創業者が引き続き支配したり、後継者に集約することも可能である。もっといえば、外部専門家やアドバイザーの同意が経営判断に必須という仕組み化なども可能である。
これにより、一人の意見に偏った支配的会社経営リスクも軽減できるだろう。
家族信託については、ただでさえ登場人物も多く混乱しがちになるし、途中で心が折れそうになるほど検討することも多いのだが、最初にも申し上げたように顧客の顕在化しているニーズだけでなく、潜在化しているニーズに対しても、広く寄り添いオーダーメイドなプランニングを行ううえでは、それが、私たち専門家の使命であり、それが結局は、AIには代替できないスキルになっていくのではないかと考え、日々業務に向き合っている。
長くなってしまったが、財団や社団に関するプランニングについては、また別の機会にでも触れようと思う。
ではまた!
税理士 ヒロ
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